虹のかなたに

たぶんぼやきがほとんどですm(__)m

第14回 ひとりでできるもん

 仕事柄、というのは嘘で、稼業に似つかわしからずというのが正しいが、ちょくちょく出張がある。やはり首都圏が多くて、東京は毎年行くし、周辺も神奈川、千葉、埼玉は回った。他は愛知、福井、香川、愛媛、福岡、そして最近はなぜか沖縄が多い。全国津々浦々には程遠いが、それでもいろんな所へ行かせてもらっている。
 
 勿論「仕事として」行くのだから、物見遊山では決してないし、行くごとに企画や提案を伴った報告書を書かされるから、当然「出張の成果」を求められるものではあるが、しかし、「旅とは非日常へ一歩を踏み出すこと」を信条とする私であるから、出張には普段のデスクを離れる解放感に浸れる楽しみがある、というのが偽らざる心情である。
 
 大概は上司に随行するとか、同僚や部下と一緒に、という出張であるが、セミナーや講演会など、単身赴くことも往々ある。一人旅の醍醐味同様、「一人出張」の良さは何を措いても、人に気兼ねをしなくて済むことである。余った時間で街を徘徊するのも自由、現地で旧知の人に会うのも自由、夜更かしして呑んだくれるのも自由、朝食を食べないのも自由、その分寝ていられるのも自由、行き帰りの睡眠も自由。自由自由、自由万歳。
 
 かくも自由を謳歌できる「一人出張」であるが、一点だけ懸念材料がある。それは、昼食の問題である。
 
 何を隠そう、などと偉そうに言える内容では全くないが、私は「一人で食事」というのが実に苦手なのである。
 
 レストランなど、グループで行くことが主流の店に一人で佇むことが耐えられず、周囲が賑やかに談笑している中で一人黙っていることも辛い。また、注文した品が出てくるまでに費やされる時間をどう過ごしてよいのかがわからない。「手持ち無沙汰」ということの苦しみを味わうのに、これに勝るシチュエーションはないのではないかとさえ思う。
 
 夜であればコンビニで弁当なり酒なりを購入して、ホテルの部屋でまったり食せるから問題ない。しかるに外出している昼間は大変な問題である。言葉を発しないで一人で過ごすのだから、できることなら混雑していない、閑散としたところがよい。結局、「一人で行くことが前提の店」を選ばざるを得ず、そうなると、選択肢は昼下がりの立ち食いそば店くらいしかなく、出張中は毎日そばを啜る羽目に陥る。大層貧しい食生活を強いられるのである。因みにファーストフードや牛丼屋という選択肢も考えられようが、意外に連れ立って食べに来る者が少なくなく、落ち着かないから、好んで行くものではあまりない。
 
 そんな感じだから、普段の職場での昼食も一人であればコンビニで購入して自分のデスクで食べるのが専らである。仕事帰りに行きつけのバーで煙草を燻らせながら一人静かにグラスを傾けるなんてことをやってみたいとは思うが、やはり一人で行けぬものであるから、誰かを半ば強制的に連行してやっと店のドアを開けることができるのだ。誠に始末に負えない。こんなことは偏に孤独を異常なまでに忌み嫌う自身の根性なさによるものである。あるいは人見知りが激しい故のことかも知れぬ。いずれにしても、何とかせねばならない、不甲斐ない性格である。
 
 折りしも先日、AKB48前田敦子が「卒業」を発表した。各方面に叩かれながらもセンターの座を守ってきた彼女の孤高たるや、そこら辺の呑気な学生風情には到底理解できるものではあるまい。私は特段の贔屓ではないが、しかし弱冠二十歳、世の若者の多くはまだ社会にすら出ていない年齢というのに「孤高からの解放」とは何という生き急ぎ様であろうか。
 
 けれどもまだまだ先の人生は長い。「孤高のセンター」で鍛えられた若者の前途に何が立ちはだかろうと乗り越えていけるのではないかと思う。その点、飯も一人で食えぬアラフォー男の情けなさと言ったらないと、素直に反省する次第である。“二度目の成人”を間近に控え、私は今更ながらに「自立」を求められている。